気持の輪郭をはっきりさせる。
興味がある話を聞くとき、人は身体を前傾させます。
すごく興味のある話には、前のめりになるかもしれません。
この前のめりの姿勢は何によってできるのでしょうか?
それは筋肉です。
腕、背中、腰、首、足などの筋肉が収縮して「前のめり」の態勢を作ります。
興味深いと思う気持ちが、筋肉を働かせているのです。
興味のない話を聞かされる時、人は身体を後ろに引きます。
嫌いな話なら、席を立ってどこかに行くかもしれません。
後ろに引くのも、どこかに行くのも、筋肉の仕業です。
興味ないという気持ちが、筋肉働かせています。
この場合は、力が抜けて働かない筋肉もあるでしょう。
いずれにしても、気持ちが筋肉を働かせたり、働かなくさせたりするのは明らかです。
患者さんの中で、どんなに筋肉や骨格の矯正をしても、ある動作をするとまた痛みが出て来る方がいます。
この場合は、気持ちにアプローチしないと治りません。
では、気持ちにアプローチするにはどうすればいいか?
メタファーという治療法を使います。
例えば、今日、メタファーで治療した患者さんの話をしましょう。
この方は寝ていたり、座っていたりすると痛くないのですが、歩き出すと腰が痛いという方です。
筋肉・骨格のバランスをとり、矯正を行っても、歩き出すとまた腰が痛くなります。
そこで、歩いた後にどの筋肉が弱くなるのか、筋力テストで探し出すことにしました。
その結果、左大腿筋膜張筋と右梨状筋が弱くなるのがわかりました。
大腿筋膜張筋は太ももの外側にある長い筋肉で、梨状筋はお尻の奥にある筋肉です。
両方とも歩行時に体のバランスが崩れないように支える筋肉です。
このふたつの筋肉が、歩き出した途端に力をなくすのは、どんな気持ちが関係しているのかを調べます。
人は自分の気持ちがはっきりとわかると、それに対処します。
何かをして解決しようするばかりではなく、しょうがない、これは諦めようとか、そういうことも対処していることになります。
あるいは、だれかに相談しようとか、猫に癒してもらおうとか、生きていこうとする気力のある人なら、なんらかのかたちで対処するものだと思います。
そうやっていくうちに気持ちが整理されて、頭の中がすっきっりする。
スッキリした頭は筋肉に指令を送りやすくなり、筋肉は力を取り戻します。
生きていると、なあんとなあくモヤモヤとして気分が悪いとか、すっきりしない、調子が出ないということがあります。
そんな時は、気持ちの輪郭がはっきりせず、なんとなくいやなことが霧のように頭の中に充満しています。
しかし、悩みでも心配事でも、輪郭をはっきりさせ、パッケージをして脳の中の一ヶ所においておけば、すっきりとします。
そうでないと、モヤモヤした霧のままでは、他のいいことやうれしいことにまで霧がかかり、モヤモヤ一色になってしまいます。
私は、今、どんなことが気になっていて、どうしたいのか?どういう気持ちがあるのか?これをはっきりさせることが人生を前に進める手掛かりになります。
気持ちに輪郭をつけること。
これが大切だと思います。
その手助けをするのがメタファーです。
メタファーとはたとえ話という意味です。
その筋肉の働きに関係することを比喩やたとえ話にして患者さんに質問します。
勘違いしないでいただきたいのは、これはカウンセリングではないということです。
カウンセリングなら患者さんの話を聞き、それに対してアドバイスをしたりしますが、メタファーの場合は、アドバイスはしません。
もっとこういうふうに考えたら・・・とか、こんなやりかたがありますよ・・・・などと一切言いません。
ただ、ひたすら「そうですか」と聞くだけです。
あまりにも質問が抽象的なので、質問の意味が分からないというかたにも、できるだけ説明したりしません。
あるいは、質問の内容とは関係ない答えになっても、どんなに脱線しても止めることなくお話をお聞きします。
いくつかの質問をして、その質問の答えを聞き終わるたびに筋力テストをします。この場合は、大腿筋膜張筋や梨状筋ですね。
これをしていくと、ある質問に対して答えても力がでないのに、他の質問に答えると力が出るという現象がおきます。
力が出たら、治療は終わりです。
もう歩き出しても痛みは出なくなります。
ちなみにこの患者さんが力を出した質問はこんな感じのものです。
梨状筋の質問
あなたは内股になっていませんか?
それともいつも膝がぎこちない感じがしませんか?
答え
内股というよりはガニ股になっている。いつもかっこっ悪い歩き方をしていると思う。
歩いていると、いつも不安でぎこちない感じがする。
これで梨状筋の力は出ました。
他にもう一つ質問に答えてもらいましたが、力が出ませんでした。
次は大腿筋膜張筋の質問
あなたは毒となるようなものに執着していませんか?
答え
横になって寝ていると楽なので、いつのまにかごろごろしている。
これでは、だめだとはわかっているが、いつのまにか横になっている。
これで大腿筋膜張筋の力は出ました。
他にもうひとつ質問をしましたが、力は出ませんでした。
ベッドにあおむけで寝た状態でメタファーを行いました。
少しあおむけの状態が長くなりました。
腰が痛い人は、長くあおむけで寝ていたあとでおきあがると強い痛みを感じます。
患者さんにベッドから起き上がり歩いてもらうように指示しました。
患者さんは痛みなく起き上がり、歩いても痛くなくなりました。
メタファーの効果がはっきりと現れました。
あらためて心と体のつながりを実感しました。

