「おとな」論
大人になってお酒を飲むようになってから、カキをおいしいと思うようになった。
子供の頃は、母親がたまにカキフライを買ってきてくれたがおいしいとは思わなかった。
癖がある味が好きではなかった。
同じように子供のころ好きじゃなかったものにレバーがある。
これは味も奇妙であったが、食感が嫌いだった。
それが、お酒を飲むようになってから好きになった。
少なくても私個人においては、酒が食の好みの幅を広げてくれた。
癖のある味と言うのは、いわゆる複雑な味だ。
人間が感じる味覚は五つあると言われている。
甘味・塩味・辛味・酸味・旨味だ。
カキやレバーのうまさというのは、その中の旨味というわけではない。
旨味であれば、子供の時から好きなはずだ。
人間、何十年も生きていると、ありきたりな味に飽きて来る。
なんともいえぬ複雑な味を味わってみたくなる。
しかし一方で、食べなれたものを食べていれば安心だと思う。
食べなれないものを選んで食べるというのは、ひとつの冒険だ。
特に生ガキやレバ刺しなどは、食あたりの危険性をはらんでいる。
それでも酒の肴に選ぼうとするのは、酒で気持ちが大きくなるからだと思う。
しかし、多少の危険性を承知したうえで、くせのある複雑な味わいを堪能する。
これが大人と言うものだ。
少し前にテレビでツキヨタケを食べた男を取り上げていた。
ツキヨタケというのは、猛毒のキノコで、食べれば下痢・嘔吐・痙攣だけではなく、幻覚まで現れるという。
しかし、うわさでは相当美味しいらしい。
その人は、ツキヨタケを調理し食べるところをYouTubeにアップした。
「これは、マジで美味い!ヤバっ!」と言いながらバクバク食べた。
しかし、あとになって症状が出て、「脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだ」と言って悶絶したそうだ。
こうなってくると、もはや大人ではなく子供だ。
後先考えずに100%の危険を犯し、ヒーローになろうとした。
大人の境地はそんなに甘くない。
人生の辛酸をなめ、それでも酒を飲みながら苦笑する。
その時に下痢や嘔吐の危険性をはらむカキやレバーを食べる。
そしてしみじみと「うまいな」とつぶやく。
これが大人と言うものだ。

