お散歩日記 R7.1.14
朝6時起床。
着替えてすぐに車のエンジンをかける。
お天気は曇り。
あたりはまだ薄暗い。
屋外の駐車場に停めているため、雪が降れば、車の雪をかいて落とす。
昨日から雪は降っていないようなので、この作業がない分だけ楽だ。
しかし、早めにエンジンをかけておかないと、フロントガラスの曇りがなかなか取れない。
したがって、顔を洗うよりまず、車のエンジンをかける。
家に戻って洗顔、トイレを済ませたら、水筒に素粒水を詰め込む。
素粒水は、前の晩、妻が冷蔵庫の中に用意してくれている。
続いてヤクルトを飲む。
そして車に乗り込んで、Fmラジオを聴きながら出発。
市民の森の駐車場に5分位で到着。
除雪がきれいにされていて、気持ちがいい。
気温は1℃。
駐車場のアスファルトは雨でぬれていて、氷ってはいないようだ。
車を降りて学習棟に向かう。
坂の上り口に足を踏み入れる。
雪が凍って硬くなっている。
表面は薄いシャーベット状の雪が乗っている。
滑らないので安心して足が運べる。
昨日は休日だったので、何人かはこの坂を登ったのだろう。
登り降りした足跡がついている。
その足跡を踏みなおすように辿って登る。
ジャリジャリと表面を覆った雪を踏む音がする。
下は硬く凍っているが、表面をシャーベットが覆っていて、ちょうど滑り止めのようになっている。
とても安定していて踏み心地がいい。
少し登り進めていくと左手に素晴らしい風景が広がる。
正面に大きな山。
そのふもとには民家が2軒。
その手前には田んぼ。
その手前には、駐車場。
私の車が停めてある。
その風景をはさむように目の前には大きな桜の木が2本。
冬の田舎の風景を描いた水墨画・・・・というよりは、版画のようだ。
2本の桜が額縁をつくるように、その風景を切り取るように立っているのが、またいい。
私のお気に入りの風景だ。
この場所に来ると必ず立ち止まって眺める。
そして言う。
「いいねぇ~。」
言葉にしておかないともったいない。
それほど気に入っている。
さらにじゃりじゃりとシャーベットを踏みしめながら登る。
まもなく学習棟だ。
きょうも黒々としたログハウスが暖かく歓迎してくれている。
そこを通り過ぎてさらに坂道を登る。
ここから先は、かなり急な坂になる。
登る足跡も一人のものになった。
昨日は一人しか、ここを登らなかったようだ。
その足跡を踏むように登る。
すると、ズボッとぬがる。
右足を踏み出す。
雪が堅い。
ぬがらない。
左足を踏み出す。
ズボっとぬがる。
右足はぬがらないのに左足はぬがる。
体重のかかりかたが左右違うからだろうか?
もっとゆっくり歩く。
左右で重心のかけかたを同じにするように・・・・。
それでもぬがる。
今度は右足だ。
少し、左足ぬがらない、右足ぬがるのパターンが繰り返される。
ときとして、パターンが急にランダムになる。
右OK,左ズボっ!左OK、右ズボっ!左OK、右ズボっ!左ズボっ!右左OKI!右ズボっ!左OK、左右ズボっ!
んんんんっ!うぐっ!
思わずうめき声が漏れる。
な、なんだこれは!
全く予測不能だ!
フラフラになりながら城見台にたどり着く。
例によって雪に埋もれた切り株のオブジェの上に立つ。
まだ日が昇らない東の空に合掌。
「今日もありがとうございます。」
視線を北に移す。
白と黒の見事な水墨画の世界。
山々が曇天の下に冴え冴えと浮かび上がっている。
さらに視線を西に移す。
山が途切れ、市街地が小さな屋根を並べて眠っている。
ところどころ、小さな灯りが見える。
空は群青色。
その下に白濁の雲がたちこめている。
その雲から、一枚の薄いカーテンが市街地に垂れ下がっている。
まるで一部の限られた場所だけが、雲のカーテンで隠されているかのようだ。
おそらくあそこには局所的に雪か雨が降っているのだろう。
また今来た道を引き返す。
こんどは下り坂。
左右の並ぶ木々の梢の間から、街の小さな灯りが見える。
葉も花もない骨だけになってしまったかのような木の枝に、クリスマスツリーのような電飾がともる。
私だけの贅沢な風景だ。
しかし、下りも同じようにランダムに足がぬがる。
最初は、前方に視線を定め、脚の位置に関わらず丹田を空中に静止させながら進もうと努力したが、だんだんフラフラになり、脚を前に進めるのがやっとになった。
フラフラになりながら、学習棟に到着。
気温1℃。
しかし、雨が降って幾分雪の嵩が減っているせいか、あまり凍えるような寒さは感じなかった。
さあ、今日も太極拳99勢をはじめよう。
起勢。
両腕を挙げると暖かなボールが丹田に現れる。
今日は、丹田ボールの温度が少し低い感じがした。
欄雀尾。
頭頂に気の塊を感じる。
やがてそれは赤く熱したニクロム線のように、体の芯を垂直に垂れ下がっていく。
単鞭。
頬に東からの風を感じる。
強度は、扇風機の「中」程度。
肘底看錘。
風の向きが東から西に変わる。
風の強度は、やはり「中」。
あまりこんなふうに、急に風向きが変わることはない。
そう思った途端に、あられがまっすぐ地面を突き刺すように降ってきた。
こ、これだったのか!
さっき見た白いカーテンの正体だ。
拗歩倒輦猴。
あられはやがて大粒の雨に変わり、地面にぼたぼたと落ちてくる。
提手上勢。
なにごともなかったかのように雨がやみ、静けさが戻ってきた。
並歩進歩搬攔捶。
チュチュン、チュチュン
小さな可愛らしい声が聞こえる。
小鳥の声だ。
最近は、カラスの鳴声も聞かないが、鳥の声を聞くのは久しぶりだ。
チュン、チュンではなく、チュチュン、チュチュンなので雀ではないようだ。
収勢。
今日も太極拳99勢、やりきった。
時間にして35分。
坂道をぬがりながら歩いたせいか、脚の疲労感は隠せない。
し、しまった!
今日は大事なことを忘れていた。
大急ぎでトイレの入り口の前に立ち、引き戸を開けてみた。
ガラッ、
やはりカギはかかっていない。
感謝の気持ちを込めて直角にお辞儀をする。
「ありがとうございます。」
学習棟をあとにして駐車場におりる坂道を下っていく。
ここは、何人かの足跡で踏み固められていて、脱がることはなかった。
駐車場に降り立つ。
少し、小雨が降ってきた。
駐車場から道路に出るまでのあいだに短い下り坂がある。
私はこの坂を「デッドゾーン」と呼んでいる。
冬でなければ、なんのことはない。
舗装された坂道だが、冬になり気温が0℃近くになってくると、そこは地獄の坂道となる。
坂道はまっすぐではなく、S字にカーブしている。
しかもただのカーブではなく、左から右に傾斜がついている。
こちらから行くと、まず最初は右へ曲がるカーブだ。
次は左カーブ。
いづれも右が低くなっている。
左側は草が茂っており、雨が降ると水が道を左から右へ流れ出してくる。
これが凍ると、S字カーブ+傾斜+滑る=「デッドゾーン」となる。
冬場は雨が降っても雪が降っても、晴れて放射冷却になっても、この方程式が消滅することはない。
まるでエンマ大王の取り調べのようだ。
この関門を乗り切れば、大平森林公園には行かせてやろう。
もし、ここで滑って転べば、下は硬いコンクリート。
病院に直行。
辛い日々が待っている。
さあ、どうする?
もちろん、ここまで来てひるむわけにはいかない。
へっぴり腰になりながら坂を下る。
大平公園へまっすぐに向かう、広い直線道路に出る。
道路の両端には低い雪の壁。
しっかりと包丁で白いケーキを切った時の切り口のような断面が、道の両側に続いていく。
除雪が丁寧にされていて、路面に雪は積もっていない。
やっとまともに歩ける。
右側にある歩行者専用通路は雪に覆われていて、すぐそばを小川が流れている。
いつもだと、除雪されている道路は歩かずに、雪に埋もれた歩行者専用通路を歩く。
もちろん、ズボズボとぬがる。
しかし、丹田の位置を一定に保ち、ぬがりながら雪上を水平に移動していく。
これを電柱から電柱まで区間を極めてチャレンジする。
手前の電柱からもう一本先の電柱まで。
慣れてきたら、2本先の電柱まで。
今日は3本目まで行く予定だったが、予想外に脚に負担を掛け過ぎてしまったので、やめにした。
毎日のことだ。
無理をすれば続かない。
続かなければ、稽古にならない。
そこから例の貯水池まで車道を歩いた。
貯水池の水面は白く凍っていた。
そこに山は映りこんではいなかった。
しかし、それはそれで美しいと思った。
また黒々と伸びた車道を歩いて駐車場に戻って行く。
雨は降っていない。
広々と曇天の空が広がっている。
今日もいいお散歩ができた。