「一回たった20秒、これだけで痛みが消える。もう戻らない!」は本当か?
腰痛だけには限らず、古今東西、様々な治療法がある。
中でも最近特に注目されている筋膜リリースについて少し考えることがる。
筋膜とは筋肉を包む膜のことである。
筋膜は一個一個の筋肉を単体で包んでいるのではなく、複数の筋肉を繋げながら、線路のように身体の中を走っている。
これをアナトミートレインと呼ぶ。
このアナトミートレインの走行は7本あって、筋肉の連携プレーの模様を体現している。
このアナトミートレインの途中で、筋膜が筋肉と癒着を起こすと、筋膜が筋肉の動きを邪魔することになり、その影響はアナトミートレインでつながれた他の筋肉の動きにも影響を与える。
たとえば、スーパーフェイシャル・バック・ライン。
このラインは、額から始まって脳天を通り、後頭部~背骨の両脇~腰~仙骨~太ももの裏~ふくらはぎ~アキレス腱~
足の裏へと続く筋膜である。
後頭部に筋膜の癒着があれば、それ以下の背中、腰の筋肉が伸びにくくなり、前屈しにくくなる。
あるいは、ふくらはぎに癒着があれば、つま先が上がりにくくなったり、膝が伸びにくくなる。
こんなふうに一部分に癒着があれば、ある特定の動作がしにくくなったり、それにともなって痛みが出たりする。
これを放っておくと、このライン上の筋肉だけではなく、他の筋肉にも負担がかかり、あちこちに痛みがでる。
したがって、施術はこの筋膜の癒着をはがし、筋肉の動きをスムーズにする。
これによって筋肉の負担がなくなり、痛みが改善していく。
しかし、この施術をする人で、少し気になるコメントをする人がいる。
「この施術はわずか20秒で終わり、あとは痛みも出ないし、戻ることはありません。」
確かに症状によっては20秒で痛みが消えても不思議ではない。
だが、戻らないというのはいかがなものか?
筋肉が痛みを出す原因が筋膜の癒着だけなら理解できる。
しかし、私はそうは思わない。
筋肉は連携プレーである。
その筋肉の連携プレーが上手くいかないで痛みが出ている。
その上手くいかない理由は、働きすぎの筋肉がいて、怠けている筋肉がいるせいだと考える。
それはチームの癖であり、動きの癖、日常動作におけるお決まりの連携プレーによるものだ。
筋膜の癒着は、筋膜のしわである。
ずっと座り続けていれば、ズボンの膝のところにしわができる。
ずっと前かがみがつづけば、腰回り、お尻まわりにしわができる。
それでは、うちに帰ってアイロンをかけてもらえば、翌日はしわができないか?
また座り続けていれば、前かがみが続けば、当然できる。
したがって、筋膜の癒着が痛みの原因と考えるならば、一回施術しただけで痛みが消えて、もうもどらないという理屈は通らない。
一方、筋膜リリース以外の施術で、筋膜にアプローチしなくても痛みがとれる施術はいくらでもある。
したがって、筋膜リリースをすれば、痛みがもどらないというコメントは控えたほうがいいと思う。
ただ、その戻り方を遅くするために、筋肉の連携プレーの仕方にアプローチし、そこの参加する選手の筋肉のパワーを強めてあげれば、痛みが戻りにくくなる。
これは当院の考え方だ。
痛みが消えても、定期的に連携プレーの再確認をしなければ痛みが戻ってくる可能性がある。
参加する選手のコンディション、連係プレーの正確さ、速さ、スピードなど、しっかりとチエックしなければまらない。
静止した筋肉や筋膜を見ても正しい情報は得られない。
動きの中で、どの選手がどんな動きをするのか見極めてはじめて施術が功を奏し、痛みが消えるのだ。
場合によっては、選手の悩みだって聞く必要がある。
それにはそれらの項目をテストする方法がなければ始まらない。
当院では、その方法を使って多くの患者さんの痛みを取ってきた。
そして、月一回は来院してもらい、筋肉のチームプレーがうまくいっているかを確認し、修正している。
それで初めて痛みから遠ざかることができる。
施術を一回だけして痛みが無くなるということはあっても、チームプレーがグダグダになっていれば、すぐに痛みは戻ってくる。
チームプレーがしっかりとしていても、メンテナンスを怠れば、また痛みは戻ってくるだろう。
逆を言えば、痛みが消えたあともメンテナンスを定期的に行えば、痛みから遠ざかった生活ができるとも言える。
あまり現実離れした話は避けたいと思う。