お散歩随想録
散歩中に名前のわからない植物の名前を調べて憶えるようにした。
しかし、それ以来、散歩が楽しめなくなってしまった。
散歩の目的は、人によって少し違うと思う。
足腰の衰えを防ぎたい人
犬の散歩で、しかたなくやっている人
病院で成人病を指摘され、散歩をするように指導された人
などなど。
私の場合は、気分転換が主目的だ。
私は、新潟県見附市に住んでいます。
市民の森というものがあって、小高い山になっている。
その中腹より少し上の所に城見台という平らなところがあって、そこまで登って降りてくる。
そこから、大平森林公園までしばらく一本道を歩き、また戻ってくるというコースだ。
その一本道は、まわりに田んぼが広がり、遠くの山々が見えてじつにのどかな雰囲気だ。
空も広くひろがり、なんとものびやかで、気分がせいせいする。
お気に入りの散歩コースだ。
道端にもいろいろな草木が生えていて、季節の移ろいを感じさせる。
歩いてると、これは何の花だろう?と知りたい誘惑にかられるが、そこはあえて抑えておく。
ぼーっと歩くのが好きなので、そのような邪心に負けてはならない。
ところが春になり、広い田んぼを臨む一本道を歩いていると、道端に可憐な小さな菊のような花が沢山咲いているのを見て、きれいだなあと思ってしまった。
何年もこの散歩を続けているのにもかかわらず、今まで気にならなかったのが不思議だった。
しかし、なぜか今年は気になって目が留まった。
気になって仕方がないので、ついにGoogleで検索してしまった。
今はスマホのカメラで写真を撮れば、その映像を基にAIが検索してくれる。
しかし、その検索結果が正しいとは限らない。
検索した植物の分布地が、外国の限られた地域にしか生息しないものだったり、開花の時期が全然違ったりする。
そこでさらにいろいろな情報を検索することになる。
そのうち散歩どころではなくなる。
ハルジオン
それがこの可憐な花の名前だ。
北アメリカ原産で、明治時代に日本に入ってきた。
それが全国的に分布するようになった。
これと非常によく似ているのが、
ヒメジオン
ほとんど見分けがつかない。
開花時期としては、ハルジオンは春に咲き、ヒメジオンは夏に咲く。
一番わかりやすい見分け方は、葉の形だ。
ハルジオンの葉を抱き込むように生えていて、ヒメジオンの葉は茎を抱き込んでいない。
この二つの違いが判らなければ、この花はずいぶん長い間咲いているのだなあと思ってしまう。
私の知らないところで、ひそかにハルジオンとヒメジオンの間でバトンリレーが行われていたのだ。
私は、それを知らずに同じ花が春も夏も咲いているとしか思わず、のほほんと道を通り過ぎていた。
これでは、ヒメジオンとハルジオンに対してあまりにも失礼だ。
私は、それを機に道すがら出会う植物たちの名前を片っ端から調べ、名前を暗記していった。
結果、散歩が楽しくなくなった。
気分転換にならなくなった。
山や田んぼに生えている植物の名前をひとつひとつ確認し、忘れてしまったものは調べなおした。
調べたものの中には、本当にこの植物の名前なんだろうかと思うものが多々あった。
疑い始めると検索が止まらなくなり、時間を忘れて路上に立ち尽くすこともあった。
もう、やめよう。
再び私は、植物の名前などを気にせず、ぼ~っとしながら散歩をすることにした。
しばらくして、この地域にクマが出没したという情報が入った。
今までもそういうことはあったが、やり過ごして散歩を続けてきた。
しかし、ここまで頻繁に出没情報が入ると無視するわけにはいかない。
残念ながら、ここでの散歩はやめにして、市街地を歩くことにした。
安心して自然を満喫できなくなるほど、窮屈な世の中になってしまったか・・・・・。
なんだかとてもやるせない気持ちになった。

