「もう、これくらいでいい」と言う患者さんを尊重します。
何をもって治ったと判断するかというのは、人によって違う。
患者さんの中でもいろいろな基準を持っている。
足に痺れがある。
ふとももとふくらはぎ、足の甲に痺れがある。
施術を続けていった結果、ふとももとふくらはぎの痺れは消えた。
しかし、足の甲にしびれが残っている。
でも、まあ、このくらいならそんなに支障がないし、妥協しながらやっていこう。
それにもう年だし、このくらいはしょうがない。
施術する側にとっては、やっとここまで痺れが消えた。
あとは足の甲だけ。
それがなくなれば、治癒だ。
この両者の思惑の違いで、お互いに不快な思いをすることがある。
患者さんは、もうこの辺で治療を辞めたいと思い、施術者は、あともう少しで治ると思う。
あともう少しで治って、再発もしにくくなりますから、とか今の患者さんの筋肉・骨格の状態を説明し、あとここが修正されればなどと説明しても、「もうこの辺でいい」という患者さんの思いがくつがえることはない。
たとえ、わかりやすく説明して、痛み痺れがきれいさっぱりなくなっても、もう2度と来ないだろう。
この辺でいいと言うのに無理やり通わされたという思いは残るからだ。
施術者は、患者さんに完全に治ってもらいたいと思うのが当たり前。
患者さんも、完全に痛み痺れを無くしたいと思っている・・・・のが当然だと思っている。
しかし、この「完全に」という言葉がくせ者なのだ。
ほとんどの患者さんが、今すぐこの痛みや不快なしびれを取ってもらいたいと思って施術を受けに来る。
そこには、「とりあえず」というニュアンスを含んでいる。
痛みが出て痺れまで出ていれば、一回や2回目の施術では治らない。
今までの経験上、週1回のペースで通ってもらい、一か月後には痛み痺れがかなり減ってくる。
2ヶ月めには、日によって痛み痺れがあまり感じられない日が出てくる。
3か月が終わると痛み痺れはなくなり、再発もしにくくなる。
しかし、サラリーマンにとって、3か月ものあいだ、この施術の時間を確保するのはむづかしい。
わたしもサラリーマン時代が長かったのでよくわかる。
家事や介護で忙しい方も同様。
時間的な問題はかなり負担となる。
さらに当院のように自費治療でお願いしているところは、保険診療と比べて施術料が高い。
患者さんにしてみれば、完璧に治るまで待っていられない。
自分の体を完璧に治すことよりも、とりあえず今、優先させることがたくさんあるのだ。
そういう状態でくる患者さんにどうやって完璧に治るまで来てもらうか?
それがプロの治療家としての腕である!
・・・・・なんていう治療家向けセミナーが大流行している。
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しかし、この患者さんとの思惑の違いは、施術者がうまく患者さんを丸め込んで治せばいいという一方的なことで解消するものではないと思う。
患者さんに、痛み痺れの原因を解消し、再発しにくい状態になっていただくのが一番いいと治療家は思う。
しかし、患者さんは、時間も費用もかかるのなら、とりあえず痛み痺れが少なくなればいい。
自分の体は最優先事項でも、その次に控えている優先事項に早くとりかかりたい。
あるいは、取りかからざるをえない。
これが現実だと思う。
日々の生活の中で、「自分の体が一番大事!」などと、お決まりの文句をみんなが言うが、本音は「自分のことはあとでいい」と思っている。
いや、そいう人が多い。
この思惑の違いは、そんなに単純な問題ではない。
なぜなら、この問題を突き詰めていくと、「延命治療をするべきかするべきではないか?」という大問題に突き当たるからだ。
周りに迷惑をかけるくらいなら延命治療はしないで欲しい。
病院に入院している方で、意識のあるうちにこういう意思表示をする人が多いときく。
いまのところ病気は無くても、がんになったらがん治療は希望しないという人も多い。
一方、医師なら、少しでも長く生きれるように治療をするのが当然だと思うだろう。
もちろん、どっちが正解かなんて決められるものではない。
しかし、医師としての正解が、患者さんにとっての正解ではないということは、はっきりとわかる。
患者さんの人生は患者さんのもので、どう生きてどう死ぬかは、法律やモラルや医師の答えとは別に存在している。
医師にとっても永遠のテーマだと思う。
おおげさなところにいきついてしまったかもしれない。
しかし、痛み痺れを自分の人生の中でどう扱っていくのかは、患者さんの意思だ。
これは尊重されるべきで、そんなことを患者さんに思わせたりするのは、治療家の問診テクニックが下手だから・・・などと的外れなことを言う大先生とは一線を画したい。
ただ、勘違いしてもらいたくない。
私は患者さんに施術する時は、完璧をめざす。
適当でいいやなんて施術はしない。
ただ、そこをめざす途中で、患者さんに「もうこのへんで・・・・」と言われたら、それは尊重する。
しかし、本音では「もう少しで治るのに・・・・」という悔しい思いはある。
それだけ真摯に取り組んでいる・・・・・と思って欲しい。