人は悪いところを探し続ける。
患者さんの痛みを少なくするためにストレッチや運動を指導する。
しかし、患者さんご自身が、こんなことやっても本当に治るんだろうかと不安に思っている場合がある。
立場をかえて、私が患者になったとして考えてみる。
私がたとえば腰が痛いとする。
カイロプラクテイックの施術を受けて痛みが少なくなったとする。
私は質問する。
「先生、今施術してもらって少しは楽になったけど、また痛くなるんでしょ?」
そのとき先生に言われる。
「この状態を維持するためにこのストレッチをやってください。これをやって良くなった方も多いです。」
ストレッチの指導を受ける。
しかし、こんなに簡単なストレッチで治るんだろうか?と疑問を持つ。
帰宅してやってみる。
やっては見るが、痛みが消えない。
まだある。
本当に痛くなくなるのか?
翌日もやってみる。
痛みはまだある。
もうやめよう。
やっても効果がわからない。
私の性格としては、心配性だ。
それに結果がすぐ出ないと諦める。
施術してもらってストレッチもやったのに、まだ痛みがある。
もうやめようと思う。
他に何かいい方法はないか?
本を読んだり、動画を見たり、ネットで探したりする。
これで多くの時間と手間をかけてやっても、いい方法が見つからない。
あ、これは効くかもと思ったやり方はあっても、その場で痛みがゼロになるわけではないので、そのうちやらなくなる。
もう、この痛みと一生付き合っていくしかないかも・・・とあきらめる。
自分で自分に「腰痛持ち」なんて変なレッテルを貼って、いろんなことをあきらめる。
多分、こんな結末を迎えるだろう。
要は、痛みがあるかないか?消えるか消えないか?しか判断基準がない。
痛みがひどかったりつからっったりすれば、だれでもこうなると思う。
あまりにも辛い現実から早く抜け出したい。
しかし、自分ひとりではどうにもならない。
また別の治療院に行く。
またやめる。
同じことの繰り返し。
私がこの治療家という職業を選んでいなかったら、辛い腰痛があったら、多分こんな結末になると思う。
お金も時間もいっぱいかけた挙句、痛みがとれない。
おまけに痛みの範囲もひろがって、しびれもでてきたりしたら、不安でたまらない。
そんな毎日を送ると思う。
問題は、痛みが消えるか消えないか、有る無いかという価値基準にある。
治療してもらったが、まだ痛みがある、と思うか、少しは減ったような気がすると思うか。
この一点に絞られると思う。
人間は、何かというと自分のことでもまわりのことでも、どこかに悪いことはないかと探す。
そういう生きものだ。
だから、地球の長い歴史の中で生き残ってきた。
社会も文明も発達してきた。
どんなに便利なものを発明しても、それによっておきる悪いことはないかと探す。
そしてそれを見つけて改善する。
しかし、まだ悪いこところはないかと探す。
それをみつけて改善する。
延々と悪いことを探し出してきりがない。
しかし、いつまでたっても完璧に良いことなんて無い。
延々と悪いことはないかと探し続ける。
しかし、良いことはないかと探すのは苦手で、それを続けるにはある程度訓練が必要になる。
良いことを探す効用を説明してもらい、悪い事ばかりを探しがちな自分に軌道修正を促すだれかが必要になる。
悪い事を探すということは、悪いことをなくそうとすることだ。
だから、完璧主義を目指している。
しかし、世の中に完璧なんてことはない。
悪いことがあるし良い事もある。
そのバランスの中で人は生きている。
痛みがあるとき、それを完璧になくそうとすればするほど、痛みの変化に気がつかなくなる。
痛みが減っているのか?それとも現状維持なのか?だんだん悪くなってきているのか?昨日とくらべてどうか?
痛みがあるかないか?
白か黒か?
2者択一ではなくて、その間のグレーゾーンに目を向ける。
これによって、だんだん痛みが減ってきている、あるいは、痛みが少ない日が増えているとか、昨日は痛かったが、今日は少し痛みが少ないとか、施術による体の変化に気づくこと。
完璧をめざす、あるいは、その場で痛みが消えることを目指す人は、このグレーゾーンの認識がない。
このゾーンを意識し、変化を感じ取ることができれば、治療を継続することができる。
治療が継続できれば、痛みは段階的に減っていく。
以前の痛みを感じないレベルになっていく。
たとえ、結果として10あった痛みが3になって、それ以上減らなくても、痛みがあるかないかの二者択一の世界で苦しみ続けていくよりは、はるかに楽になる。
できることも増える。
治療家は、良いところはどこか、良くなってきたことは何か?
この意識を患者さんにもってもらうためのガイドだ。
完璧を求めれば求めるほど完璧から遠ざかっていく。
しかし、変化を求め、良いところを探し求めて行けば、完璧に近づいていく。
しっかりとガイドしていきたいと思う。