医師の言葉と表情は、患者さんの治り方を左右する。
以前、腰痛がなかなか治らないので、なんとかしてほしいという患者さんがいた。
70歳代の女性の方で、腰椎が変形し、腰がくの字に曲がっていた。
その方は最初に市内の病院の中の整形外科を受診した。
その先生は、この患者さんを診てこう言った。
「こんなになるまで放っておいて!こんなもん治るわけないだろ!」
言われたというより、怒鳴りつけられた。
びっくりして泣きながら病院をあとにしたそうだ。
それよりかなり前、交通事故にあって、首と肩が痛くなった女性の患者さんがいた。
この方はさきほどの方とは違う整形外科だったが、そこの先生にこう言われた。
「交通事故なんだから、痛くてあたりまえだろ!」
と言って背中を叩かれたそうだ。
その方も、泣きながら帰ったそうだ。
これほど極端なことはなくても、病院で診察してもらって、先生から叱られたり、自業自得でしょうがない・・・みたいなことを言われた人は多いのではないだろうか。
叱られるにしても、その言い方というものはあるものだ。
本当に治ってもらいたいから言っているのか、ただ単に批判しているのか。
先生の表情や言葉使いでわかるものだ。
また、こういう先生もいる。
病院が混みあっていて、やっと自分の番がきて、先生に話を聞いてもらいたいのに、3分で診察が終わってしまう。
忙しいからしかたがないが、痛いところをさわりもせず、パソコンの画面ばかりみて、こっちの顔を見ようともしない。
「お変わりありませんか?それでは同じ薬を出しておきましょう。」
それで終わり。
これでは事務処理されているのと同じだ。
また、こういう先生もいる。
病院に通っていて、「なかなか痛みがとれないんですけど・・・・」と言ったら、「あ、当然ですよ。この病気はそんなもんです。あと1~2年はかかると思ってください」と、早口で言う。
これは私の父をあるクリニックに連れていったときの話だ。
痛みが治らないのは当然だと言われると、言われた方は愕然とする。
こんなにつらい痛み、早くなんとかしてもらいたいのに、「当然、1~2年は治りませんよ」なんて言われたら、だれだってショックだ。
この時も診察は3分くらいだった。
いかにも忙しいので、説明するのはめんどくさい・・・みたいな雰囲気を醸し出していた。
別の病院では、「ア~痛いんですよね~。つらいね~。でもね、この病気は長くかかるんですよ。まあ、1年くらいはかかるかな~。まれにもっと長くかかる場合もあるし・・・・。でもね治療していけば、だんだん痛みも減ってくるから、がんばって治療していきましょう。」と言われた。
どうだろうか?
同じことを言われているのに、言われ方によって全然気分が違う。
こちらにしてみれば、まず、この辛い痛みをわかってほしい。
しかし、事務的に「痛いのは当然だ」と言われる。
しかし、後者の先生はこちらの気持ちに寄り添うように、相手の痛みをわかってあげようしている。
この差は大きい。
前者からは絶望を、後者からは希望を感じる。
同じことを言われても天と地の差がある。
当然、治療に取り組む姿勢も変わるので、治り方も違うと思う。
人の行動は全て感情で決まる。
最初に感情があり、そこから思考がはじまり、それによって行動する。
そういったことを考えれば、患者さんが早く回復し、元気になるためには、まず患者さんの感情を大切にしなければならない。
患者さんの気持ちに寄り添うことが、なによりの薬だと思う。