お散歩日記 R7/1/16
着替えて車の雪おろし。
ほとんど雪は積もっていない。
少し粉雪が舞っている。
気温-1℃。
意外と地面は氷っていない。
家にもどり、歯磨き洗顔、トイレを済ませて素粒水を水筒に詰め込む。
ヤクルトを前後左右に振り、グビッと飲む。
今日はあまり底に残らなかった。
市民の森に向けて出発。
駐車場に到着。
誰もいない。
例の黒いライトバンも停まっていない。
今日は非番なんだろうか。
粉雪がわずかに舞っている。
学習棟に向けて登り始める。
今日の雪はパウダースノウ。
学習棟への道は何人も来ているようで、足場が踏み固められていて登りやすい。
少し登ると、例の私のお気に入りの風景。
今日も額縁で飾ったような雪景色を見せてくれた。
「いいねぇ~。」
親指を立てた。
さらに登って学習棟に到着。
きょうもログハウスが黒々と建っている。
さらに上に登る。
今日は、だれの足あともない。
ここから先は、純白の坂が続いている。
ただ、きのう私が登ったときの足跡部分が、わずか数センチの窪みとなって残っている。
また例によって、ランダムにぬかりながら登る。
あまりにも純白な雪が、不安定な私の平衡感覚を一層狂わせる。
息があがる。
はあはあ言いながら城見台に到着。
切り株のオブジェはほとんどどこにあるかわからないが、私の昨日の足跡がわずか数センチの窪みとなって切り株のありかを教えてくれている。
深々とぬがりながら、足の感触で切り株を探し出す。
その上に立って東の空を仰ぐ。
合掌
「今日もありがとうございます。」
視線を北に向ける。
気温が低いので、木の枝には雪の丸い塊がついている。
この辺は桜の木が多い。
この雪の塊が、桜の花の代わりのように咲き誇っている。
壮観だ。
さらに西に視線を向ける。
市街地が薄暗い平地に眠っている。
そこここにぽつぽつと小さな光が動いている。
ややオレンジがかった黄色い光だ。
車のライトが生真面目な性格のホタルのように飛んでいる。
さて、学習棟にむけて降りて行こう。
ズボズボとランダムにぬがりながら降りていく。
心が独り、つぶやきだす。
私の武術も治療もこの雪道と同じだ。
毎日毎日、フラフラしながら、息を切らしながら歩いても、雪が一晩で足跡を消してしまう。
私の武術は、見栄えを競うものではなく、健康を維持するための体操ではない。
先人たちが命懸けで構築してきた身体動作のシステムだ。
指一本の位置ですら、そのシステムに関与している。
無駄な動きは一切ない。
見栄えを気にした瞬間から、そのシステムは作動しなくなる。
したがって、人気がない。
世間の人たちの注意をひかない。
ほとんどだれもやろうとは思わない。
孤独な道だ。
しかし、今日もその道を歩く。
雪で消されても、さらにその上を歩く。
足跡は何度も消され、表面には残らなくても、わずかな窪みをたよりにだれかが登ってくる。
そのだれかがまた、何度も足跡を消されても、さらにその上に足跡を重ねてくる。
いつか、それが道になる。
細い道かもしれないが、しっかりと踏み固められて、見たこともないような素晴らしい世界に連れて行ってくれる。
治療の道においても同じだ。
私がやっているキネシオロジーの施術は、欧米では有名だが、日本ではあまり知られていない。
しかし、この施術は、デリケートになっていく社会に生きる人たちには必要になっていくものだ。
東洋医学と西洋の徒手医療の叡智が結実したものだ。
しかし、まわりの人たちにはなじみがない。
想像もつかないような施術だ。
なじみのないものに人は自分の体をゆだねない。
しかし、私はそれでも、この施術を捨てて、従来然とした電気してマッサージ、といった施術をやろうとは思わない。
例え、少数派であろうと、この施術には意味がある。
未来の人たちを支える大切なものとなるに違いない。
そう確信している。
そんなことを考えながら、学習棟にもどってきた。
まず、やることは決まっている。
いつものようにトイレの前に立つ。
トイレの戸が開くのを確認する。
真心を込めて感謝の言葉を言う。
「今日もありがとうございます。」
直角にお辞儀をする。
学習棟のひさしの床に若干雪がなだれ込んでいる。
さいわいにして粉雪なので、すべることはない。
目の前には、平衡感覚を失うほどの真っ白な雪が積もっている。
粉雪がわずかに舞っている。
気温0℃。
カラスの鳴声が聞こえる。
昨日も聞こえた。
その前までは聞こえなかったのに・・・。
これは春が早めに来ることの前兆なのか?
勝手に解釈してみる。
さあ、太極拳99勢を始めよう。
起勢。
腕を挙げると丹田に丸いボールが現れる。
攬雀尾。
ひさしの天井と頭頂部が糸でつながってくる。
単鞭。
丹田からエネルギーが左右の腕に昇ってくる。
左右搬攔。
遠くで新幹線の音、列車の音、車の走る音・・・・・。
雑多な喧騒がかすかに聞こえてくる。
しかし、この山々は静寂に包まれている。
遠くで目を覚まし始めた町の喧騒が聞こえてくるのに、私のいる空間には、静寂がとなりあって存在している。
提手上勢。
床から、私の任脈を通って暖かな風が吹きあがってくる。
下の前歯がムズムズとしてくる。
分脚。
重心が安定している。
何か空間に浮かんでいるような感じだ。
野馬分鬃。
床に足の裏がはりついていて、腰が軽い。
これは、雪道ズボッの成果だろう。
雲手。
時間があっという間に過ぎ去る。
収式。
いつのまにか終わってしまったという感覚。
現在7時35分。
いつもより5分早く終わった。
しかし、実感としては、その半分の時間しかたっていないような気がする。
学習棟の正面に立って礼。
「今日もありがとうございました。」
坂道をおりて駐車場に向かう。
やはり、何人もの人が踏みしめたあとは、安心して歩くことができる。
ほとんど雪はやんでいる。
駐車場に降り立つ。
白いランドクルーザーが停まっている。
かなり古い年式のものだ。
年輩の男性が座席に座って、なにやらもぞもぞやっている。
これから、散歩なのか?
はじめて見る顔だ。
その横を通り過ぎて、いよいよ「デッドゾーン」にさしかかった。
路面をよく見てから歩かないとエンマ大王に持っていかれる。
足を踏み入れると、ジョリジョリと足の裏に心地よい感覚が伝わってきた。
一面に白い粉をばらまいたような状態だ。
下は氷ってはいるのだろうが、その粉を踏むことで滑らずに済む。
あまりにも冷え込んだので、降ってきた粉雪が路面上で溶けることなく置きっぱなしになっている。
その踏み心地といったら、たまらない。
金平糖を粉々にして路面にばらまき、その上を踏んでいるかのようだ。
エンマ大王のご慈悲なのかもしれない。
広い道路に出る。
路面には氷砂糖のような雪のかけらが延々と並んでいる。
その上に、金平糖の粉。
実に素晴らしい踏み心地。
これなら滑ることはないだろう。
除雪車のタイヤの溝に入り込んだ雪が、だんだんと路面に落ちていき、冷え込んだ気温のために若干堅めのシャーベットブロックになっている。
滑ることなく安心して歩くことができた。
いい気分で貯水池に到着。
水面には白い雪が積もっている。
下は氷になっているのだろう。
少し眺めて、来た道を戻る。
しばらく行くと、黒いRV車が停まっている。
そのそばに一目で登山者だとわかるような装備の男性が俯いて立っている。
髪は長く、白髪まじりだ。
銀縁の眼鏡をかけている。
頬はふっくらとして、顔だけ見ると太っている人のように見えるが、体はスリムだ。
年齢的には70歳代くらいだろうか。
なぜか、申し訳なさそうにたたずんでいる。
私が「おはようございます」と先手を打ってあいさつした。
彼は、はずかしそうに「おはようございます」と返してくれた。
おそらく、ここで登山仲間を待っているのだろう。
8時近くになると、高齢の方々が、5、6人くらい集まってくる。
それより多いときもある。
彼らは、普段、大平森林公園の管理をしている。
冬場は閉鎖するので、山の管理をしているようだ。
中には90歳の大先輩もいて、毎日果敢に雪山に挑んでいる。
それに比べれば、私など子供の遊びに等しい。
じつは、その方に「おまえさんもどうかね?」と誘われたが、仕事をする時間がなくなるので、お断りした。
もっと時間があるなら、私も参加したいところだ。
駐車場に戻ってきた。
まだ白いランドクルーザーがいた。
エンジンはかけっぱなしで、中の男性はニット帽をかぶって、なにやらごそごそと動いていた。
なぞだ。
見ないふりをして、車に乗り込み、エンジンをかけた。
今日も無事お散歩を終えることができた。