お散歩日記 R7/1/15
着替えて車の雪おろし。
ほとんど雨に近いみぞれが降っている。
車にも薄くシャーベット状の雪が乗っているだけだ。
家に戻って例のごとく、はみがき洗面、トイレを済まし、素粒水を水筒につめる。
ヤクルトは飲む前に良く振ってから飲む。
良く振らないと、飲み残しが容器の底に丸く残る。
こうなると、残った分は振ろうが何をしようが、飲むことはできない。
良く振っているつもりだが、あまりきれいにいったためしはない。
さあ、市民の森に出発。
気温1℃。
だんだんみぞれがぼたん雪になってきた。
市民の森の駐車場に到着。
ボタン雪の降りが強くなり、かなりにぎやかな景色となる。
しんしんと降っているというよりは、宴会が始まったかのようににぎやかに降っている。
一台だけ車が停まっている。
ほとんど毎日、私が来る前に止まっているライトバン。
中には背広を来た男性が乗っていて、エンジンはかけっぱなしだ。
いつも私が駐車場に入ってくるのを待っていたかのように帰っていく。
私は所轄の刑事ではないかとにらんでいる。
不信な奴の動向をみているのかもしれない。
さて、登るぞ!
今日の雪質はシャーベットの層がかなり厚くなっている。
踏むとここちよいシャリシャリ感を足の裏で感じる。
それほどぬがることもなく、例の私のお気に入りの風景があるところまで登る。
ボタン雪が天と地を埋め尽くすように降っている。
「いいねぇ~。」
見事な風景に感嘆の言葉が出る。
学習棟の前まで来た。
雪をかぶったログハウス。
今日も私を歓迎してくれている。
さらに登る。
ここから先は、足跡が一人分しかない。
私より早く来て登っている人がいるのだ。
昨日はランダムにぬがるこの坂道に辟易したが、今日は大丈夫!
今日こそは丹田の水平移動を実現してやる!
意気込んで臨んではみたものの、現実は甘くない。
フラフラになりながら、息も絶え絶えに登った。
城見台に到着。
例の切り株のオブジェをさがす。
きのうより積雪が多く、切り株の上に直接立つのではなく、切り株に積もった雪の上に立った。
東の空に向けて合掌。
「今日もありがとうございます。」
北へ視線を移す。
山々は白く煙っていた。
雲や蒸気で煙っているのではなく、ボタン雪が空間を埋め尽くすように降っているので、遠くから見ると白く煙っているように見える。
西へ視線を移す。
風景が白く、かろうじて家々屋根が見える。
あとは白く煙って、風景が見えない。
雪の降り方が強くなってきた。
今来た道を下る。
また、ランダムにぬがる雪道にフラフラになりながら降りていく。
もう、こうなることはわかっているので、昨日よりは精神的な動揺が少なく、心なしか疲労感も少ない。
学習棟に戻ってきた。
まっすぐにトイレの入り口まで進む。
ガラッ!
今日もカギが開いている。
直角にお辞儀をし、真心を込めてつぶやく。
「今日もありがとうございます。」
このトイレを管理している管理人さんに、誠意一杯の感謝の意を表したい。
学習棟のひさしの下に立つ。
あいかわらずぼたん雪がにぎやかに舞っている。
太極拳99勢を始める。
起勢。
丹田に丸くて暖かなボールが生じる。
遠くで救急車のサイレンの音が聞こえる。
欄雀尾。
左右の目のまわり、両頬がムズムズしてきてやがて気の流れがからだの全面を降りていく。
胃系の経絡に気が流れたようだ。
胃の経絡は、目の周りを回り、両頬を通ってた上半身の全面に落ちて、大腿四頭筋の中央部に降り、前脛骨筋を通って、足の人差し指に抜ける。
左右搬攔。
救急車のサイレンの音が消える。
ここから車で5分くらい行ったところに市民病院がある。
救急車が到着したらしい。
提手上勢。
カラスの鳴声が聞こえる。
久しぶりだ。
最近、雪が多く降るようになってから、鳴声をきかなくなった。
4羽くらいがお互いの近況を報告し、ねぎらうように鳴いている。
坐盤勢。
音楽が聞こえてくる。
「うーさーぎおーいし、かのやーまー こぶなつーりしかのかわー」
なんていう曲だっけ?
「ふる里」だったかな?
毎朝、7時半になると流れてくる。
野馬分鬃。
雪の粒が小さくなってきた。
にぎやかな風景から一変し、薄い雪のカーテンが視野一杯にひろがっている。
しんしんと降り積もり、私に深い呼吸を促しているようだ。
欄雀尾。
背中から、上腕三頭筋、前腕の背側、手の甲から5指の背側にかけて、あたたたかなものが覆いかぶさる。
収式。
雪は再びボタン雪となり、にぎやかに天地を埋め尽くしている。
時間にして40分。
今日も気持ちよく套路を練ることができた。
午前7時45分。
学習棟の正面に立ち深々とこうべを垂れる。
「今日もありがとうございました。」
駐車場への坂道を下る。
この道は多くの人が通っているので、踏み固められて歩きやすい。
駐車場に降り立つ。
あたり一面、むらのある白い和紙を敷き詰めたような光景になっている。
水分の多いボタン雪が嵩を増すことができずに、まだらになって積もっているのだ。
遠慮なく、和紙の上を踏んで歩を進める。
分厚い綿を踏んでいる感じが心地いい。
いよいよ例の「デスゾーン」に挑む。
しかし、この和紙が「デスゾーン」にも敷き詰められていて、氷っている形跡が見られない。
これはラッキーだ。
滑らなくてすむ。
エンマ大王も、今日はお留守のようだ。
広い道路に出る。
ここにもむらのある白い和紙がはるか遠くまで敷き詰められている。
歩くと、やはり分厚い綿を踏みしめるような感覚がして心地いい。
道路の左手には広い田んぼが広がっている。
もちろん、今は雪に覆われている。
田んぼの向こうには大きな家が数軒並んでいる。
その家並みと道路を結ぶように細い道がつながっている。
その細い道は、もちろん除雪車が入らないので、雪でかまぼこのようにようになっている。
私が道路を歩きだすと、すぐにその細い道に小さな人影が現れる。
小柄な女の子が、左からこの広い道路に向かって進んでくる。
かなり広い歩幅でスピードもある。
長靴ではなく、丈の短いブーツで、軽快に歩を進めてくる。
彼女は、今日の雪質を理解して歩幅を広くとっている。
滑らない雪であることを熟知しているのだ。
その日によって、歩き方を変えてくる。
恐るべし!
地元の子。
私はあんなふうに迷いなく広い歩幅で進むことができない。
滑ることを恐れて歩幅もせまく、スピードも遅くなる。
私は、たかだか3年前からこの道を歩いているにすぎないが、彼女は十数年歩いているのだ。
年季が違う。
さすがとしか言いようがない。
彼女は、私の息子と同じくらいの年頃の女子中学生。
この近くには見附中学がある。
小柄でやせていて、顔がとても小さい。
ちびまる子ちゃんのようなおかっぱ頭だ。
彼女は、広い道路に降り立ちこちらに向かってくる。
私はすれ違う少し前に声をかける。
「おはよう。」
彼女は私の目をまっすぐ見て
「おはようございます!」
と元気よく挨拶してくれる。
最初は彼女のほうから挨拶してくれるのを待って、
「おはよう」
と返していた。
私のほうからなれなれしく挨拶するのは、今の時代、気持ち悪がられるかもしれないと思ったからだ。
しかし、何度かすれ違う場面に出くわすうちにこう考えるようになった。
私は武術を学ぶ者だ。
相手に先に挨拶されるのは、実戦において先手を取られるのと一緒ではないか。
後手に回るということは自分が不利になり、未熟さを露呈しているのと同じだ。
先に挨拶をするということは、相手に反応させるという事だ。
武術ならば、相手が動作を選択するその0.4秒の間に先手を取る。
逆に相手に反応させられるならば、相手に0.4秒の隙を与えることになる。
さらに間合いも大事になる。
相手との間合いが遠ければ、こちらの声は届きにくくなり、相手に届いても、なんとなく間合いの遠さが、相手に違和感を与える。
相手との間合いがちょうどよく、相手が声を発しようとするその直前に「おはよう」の言葉をかぶせる。
これが武術家の挨拶というものだ。
そういう意味では、まだ少し彼女との間合いが遠いような気がする。
まだまだ修行が足りない。
彼女とはめったにすれ違わないが、今度はもっと、精妙な間合いで挨拶したいと思う。
貯水池の前までたどり着いた。
ボタン雪があいかわらずにぎやかに降っている。
水面は白く凍って、山を映しこんでいない。
しかし、昨日とはあきらかに違う光景に目を奪われる。
山々には木がたくさん生えていて、細かくて細い枝をたくさん伸ばしている。
その細くて膨大な量の枝一本一本に白い線が乗っている。
雪でできた細くて白いラインが木の枝一本一本、丁寧に、しかも洩れなくふちどっている。
その光景を全体でひいて見ると、繊細でエレガントなモノトーンの風景に驚かされる。
今の今までこの美しさに気が付かなかった。
足元ばかりに気をとられていたからだ。
その風景をながめながら、駐車場に戻ってきた。
そこには一台の白いワゴン。
エンジンがかかっていて、そこには男性が座っていた。
彼は、これから散歩をするらしい。
私の車には、水っぽい雪が大量に積もっていた。
びちゃびちゃになりながら雪を落とす。
エンジンをかけ、FMーNIIGTAをつける。
軽快なMCのおしゃべり。
今日も有意義なお散歩ができた。
にぎやかに降るボタン雪の中、接骨院に車を走らせる。